2週間の熱狂

 今週の月曜日、私は英語のレッスンが終って知り合いの店に行った。
少しお腹が空いているけれど、家に帰って食べていると今度は朝が食べれなくなる。
そこで私はそのお店ご自慢のブリオッシュを2つ頼みメニューに載っていない紅茶を入れてもらってカウンターで知り合いと話しながら食べた。
俗に言う給料日の前日で、いつ来ても入れない、と聞く事もよくあるこのお店が今日はガラガラ。
私達は サッカーの話、映画の話(私が大好きなサム・シェパードはベンダースの新作にジェしカ・ラングと一緒に出ている)そして旅の話等を取り留めなく1時過ぎまで話した。

「私18歳の時初めて海外旅行をしたんです。アメリカの西海岸だけ。ローラー・コースターに乗るだけの旅」
相手は驚く。
「それ、ジェット・コースターの事?」
私は知り合いに、どれくらい私がコースター・フリークか話そうと思い、頭の中のインデックスをめくってみる。
そしてある話を思い出した。そしてそれを話し始めた。

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「私の中学のクラスメイトが日本建築の会社を経営していて、立派な神社の建物などをデザインして作っているんですよ。
彼が結婚する前はよく食事に誘ってくれたけどね。
1度フレンチレストランに連れて行ってもらった時、見るからに高級そうなだから私、いったのよ。
『高そうなお店じゃない!私なら焼き鳥屋で充分だったのに』
私はそう彼に言いながら、両手で焼き鳥を焼く真似をした。
彼は口を開いてこう言った。

「ここへは何人か女の子連れてきたけれど、『焼き鳥屋で良かったのに、って言いながら
焼き鳥屋のオヤジさんか、オバサンの 鳥をりを焼く真似をしたのは君が始めてだ」

私は言った。
「良かったね。いつもは可愛い女の子の前で、誠実な男を演じなくちゃいけないけれど
今日はもう相手は焼き鳥屋のオバサンなんだから、ね」
それから彼はく続けた。

「隣の街にあるあの遊園地の新しいジェット・コースターすごいね。
ボクあのコースターの後ろにある山の中腹辺りに建築中のロイヤルホテルから毎日見てたよ。
ホテルの中に日本間の部屋が幾つかあってそこを依頼されてたんだ。
コースターがオープンして2週間はみんなが手を上げて乗っているんだね。
叫ぶと言うよりは雄たけびに近い声がたまに風に乗って微かに聞こえたよ。
で、君はいつ乗りに行った?」
私は正直に答えた。
「オープンして3日目」
「やっぱりね。2週間が過ぎたらパタリと手を上げる”連中達”は消えたんだ。そして悲鳴に近い声が聞こえるようになってきた。
思っていたんだ、絶対あの手を上げている”連中”の中に君がいるって」

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そこまで話すと知人はあきれたような表情で私を見て言った。
「人って話してみないと分かんないもんですねぇ。ジェット・コースターがすきなんだ。
あれって随分オープン当初騒がれてましたけど、何がそんなに凄かったんですか?」

私は知人に説明する為に、まず自分の両手のひらの付け根の辺りをつけて左の手のひらを水平に、右の手のひらを垂直にして知人に見せて言った。
「これが90度ね。この半分が45度。」
そう言いながら右手のひらを垂直から半分ほど左の手のひらに近づけた。
「あのコースターが話題になったのは、60度だったからなの。だから・・・・この程度」
知人はポカンとした表情で私の説明を聞いていた。
「でも60度って言っても、たいした事ないのよ。私90度って乗ったんだけど、あれは真下に落ちるって感じよりも内側に入って行くって感じで・・・・」
知人曰く
「だんだん話が見えなくなってきた。しっかしその手のひらで何度って言う角度の説明。堂に入っていいっすね。分りやすい。学校でもそうやって教えるべきだ」


中学のクラスメイトは私の住む隣の街に住んでいる。
そこには日本を代表する1つの大きな神社があり、4年ほど前に新しい神殿を宮内に立てた。
杮落としの前に見学なさるのは天皇らしく、私とイギリス人の日本建築狂は、恐れ多くも天皇が拝見される前にクラスメイトの許しを得て見学をさせてもらった。

「建築デザイナーみたいな服装で来てね」

一体どんな服装が『建築デザイナー』風なのだろう。

フレンチレストランで彼は言った。

「今日のその黒のラコステのポロはステキだね」

私は目に見えない焼き鳥を幾つか裏表ひっくり返しながら言った。

「お兄さん、最初は何食べるって言ったっけ?」
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by mercedes88 | 2006-04-29 23:15 | 思い出
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