知人が見せてくれた携帯の中の写真には店先で売られているボールペンが写っていた。
「これ、買おうと思っているんだ。面白いと思わない?」 その写真のボールペンには“スイッチ”が付いていて そのスイッチを入れると、ボールペンを出し入れする際の例のカチッと言う音を 『小さく出来る』と言う。87%低減だそうだ。 私はゲラゲラ品のない笑い声を上げ、彼に言った。 「面白いよ、確かに。でも必要性があるのかしら?その“音を低減するスイッチ”の。 普通に『ノックする際の音が小さいです』じゃいけないわけ?わざわざスイッチがいるんだ」 写真を撮った本人も同じ点が面白いと思ったらしく、ある架空のストーリーを話し始める。 「未来の会議室なんだけれどさ、始まる前に誰かが言うんだ、『あー今日の会議中は“音は低減”で・・・じゃ始めようか』 するとスイッチを入れたつもりが上手く入っていなかった1人の社員がそれに気づかず なんとその会議中に例の“カチッ”と言う音を出してしまう。 一斉に会議室の出席者全員が、その音の方へ、彼の方へ、驚きと、非難と、哀れみの混じった視線を送る。彼は慌てて謝罪し、全員がその謝罪を聞いてまた、何事もなかったように会議に戻る。 その会議に出席していた1人の家庭持ちの男がうちへ帰り妻に今日の会議での出来事を話す。 「今日の会議で何があったと思う?田中のヤツ、会議中にスイッチを入れ忘れて、ペンの音をたてたんだよ!信じられない事だよ、全く。きっと明日はもうヤツのデスクには他のヤツが座るだろうなぁ・・・」 話を聞いていた妻が言う。 「まぁ、何て愚かな事を!」 そして妻の横で夕食をしている小学生の息子に言う。 「良く覚えておきなさい。あの音だけは出しちゃダメよ。そんな事したら、もう出世の道は絶たれたも同じなんだから、分った?」 私達2人はこの話をサカナにいつまでもケタケタ笑った。 しばらく前にいつもお邪魔しているジャズのサイトの書き込みで、周りの雑音が消せるスイッチが付いている(だったと記憶している)イヤホンが発売されて、使ってみると本当に周りの音が消えてクリアな音楽が楽しめる、と言う話があった。 その書き込みを読んだ他のメンバーも、自分も使っているけれど、買う前はこれほど優れているとは思わなかった、云々の事を書かれて、その後数人がすでに利用していた事が判明した。 私はそんなものの存在に驚いたと同時に ・・・村上春樹の世界みたいだ、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド的だ・・・ と思った事を今も覚えている。 しかし、果たして、音を低減するための“スイッチ”が付いているボールペンの需要はあるのか? これから私も買って、どんな利点があるのか、調査したいと考えている。 私がすでに存在しない未来に、このペンは、果たして必要、いや、重要なアイテムの1つとなるのだろうか。
by Mercedes88
| 2006-12-01 13:46
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