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ワッペン

 「日本選手権、優勝おめでとうございま~す!」
外でランチを終えた私は自分の会社が入っているビルの1つのエレベーターに乗り込んだ途端、大きな声で、そう叫んで両腕で万歳のポーズを取った。
そのエレベーターには地下から乗って来ていた外部からの人が乗っていた。その男性はデスクで働く、というよりも現場で仕事をしている人の格好だった。
私はその乗り込んだエレベーターにトヨタの社員を見つけて大声をだした。
その男性は薄いブルーグレイのパンツに、背中のTOYOTAと名前の入った同じ色のジャケットを着ていた。左の腕には金色の刺繍糸でTOYOTAのロゴとマークが入っているワッペンが貼ってあった。
 私はただのラグビーファンで、確かに大学ならば明治、社会人ならば森がいる新日鉄釜石、辺りを応援していた。
スポーツファンというものは、好きな選手が出来ると当然その選手がいるチームを応援する、情報収集を素早くする、宿敵なるチームはすぐに分り、とりあえずいつくか悪口になるネタを覚え、言えるチャンスを探してしまう。
しかしその年のトヨタの印象は全く悪くなかった。私は素直に彼らの勝利を祝った。
そしてそのトヨタの社員と今一緒のエレベーターにいる。トヨタが優勝した事をどれだけ私が喜んでいるか、その男性に伝えたいと思った。
それが一連の大声と万歳のポーズとなった。
その男性は私の突然の大きな声と万歳に驚かれたようだが、それが自分の会社のラグビーチームの優勝の事だとすぐに分ったようで少し照れながら
「どうも、ありがとうございます!」
と軽くお辞儀をして微笑まれた。
私も笑顔で、頭では試合を思い出しながら言った。
「良い試合でしたよね。私本当に嬉しいんです、優勝した事」
ドアの横に立って、並んだ階の数字のボタンを眺めていたその男性は今では顔がニコニコしている。
私はエレベーターのドアと向かい合った壁の前に立って、その男性の嬉しそうな表情が大きく顔全体に広がっていくのを見ていた。
・・・優勝が決まった夜なんか、社員みんなでお祝いしたんだろうなぁ・・・
そう言う事を考えるのは楽しいものだ。
「応援どうもありがとうございます、応援して頂いたお礼に、これどうぞ!」
男性はそう言いながら、ジャンパーの左腕についているTOYOTAのワッペンを右手でバリッとはがし、私に差し出された。
もちろん私は飛び上がって喜んだ。
「キャーうれしー!本当に良いんですか?うれしー!」
もちろん私に、アップリケやワッペンを集める趣味はない。
でも、なんだかその男性と一緒に、トヨタ優勝の瞬間を観戦した気がした。
少し大げさな喜び方だったかもしれない。でも、私は思った。

こんな大人の男性が、ただエレベーターで一緒になった人に、自分の会社のラグビーチームの優勝を『おめでとう』と言われたことが嬉しくて、着ていた会社のジャケットの袖についている会社のワッペンを、バリッとその場ではがして、お礼に、と女性に(一応女性)プレゼントするなんて、笑いネタっぽいけれど、大人だから出来るのかもしれない。
私が唯一持っているスタジアムジャンパーに沢山のジェットコースターのワッペンが貼ってある。その中に一つだけ金色のTOYOTAの文字が眩しいワッペンもある。
その日、私はその男性の事を考えた。

スマートなやり方じゃないかもしれないけれど、きっと自分の会社を好きな心の優しい愉快な人なんだろうなぁ、と。
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by Mercedes88 | 2006-11-30 01:50 | 思い出

存在しなかった想いへの後悔

彼はまるでそれが人事の様に言った。
「近頃眠れないんだ。疲れているのに眠れない・・・まぁそのうち眠れると思うけれどね」
彼女はわざとそれが大した事ではないという感じで、椅子の背もたれに預けた体を動かさずに言った。
「何日ぐらい寝てないの?」
彼は短く答える。
「2週間」
彼女はゆっくりと言葉を選んで言った。
「全然寝ていないはず無いから、短くても深い眠りをしていれば大丈夫よ」
彼がカフェの天井を仰ぎ見ながら言った。
「知ってる。だから心配してないし・・・」

1年前のある日、彼は彼女に言った。
「これに関しては君とは違う考えなんだけれど・・・・」
半年前のある日、彼女彼に言った。
「あなたが行く事を知っていたら私も行くんだったのに・・・」
そんな言葉を聞いて、彼らは思った。
彼は、彼女は、どう思っているのか・・・彼の事を、彼女の事を。

今彼は、彼女と同じテーブルに座り、彼女の目を見ながら話をしていた、落ち着いた声で。
「君のケースとは全く違うんだ。それにこの1週間は眠れるようにもなったし・・・」
彼女は興味なさそうに答えた。
「良かったわね」
彼は思った。
・・・彼女の気持ちが離れていった・・・
彼女は確信を持った。
・・・彼はもう私の事なんか考えていない・・・

彼は言ったことがない、彼女への思いを。
彼女は触れた事がない、彼に。
そして今、彼は切なく思った。
・・・彼女はもうボクを想っていない・・・
彼女は今、ため息をついて悟った。
・・・彼はもう私の事など見ていない・・・

たとえ彼が『今も君を想っている』と彼女に伝えても
たとえ彼女が『今もあなたを愛している』と彼に伝えても
彼らはその言葉を信じない。
知りたいけれど、知らない事を選んだ。
そう決めていながら、彼は、彼女は、必死に真実を探した。
言葉では無い、目に見えるもので、すべてで。

彼は密かに思う。
・・・この世の中で一番必要な人は彼女だ・・・
彼女は密かに思う。
・・・彼に出会えて幸せだわ・・・

言葉を使う事を恐れ、彼らは、自分の思いを無視してきた。
そして今、彼は、彼女は、自分達のゲームのルールの複雑さを知った。

彼は思っていた。
・・・彼女に愛と告げても、彼女は信じないだろう・・・
彼女は思っていた。
・・・彼に想いを告げても、彼が戸惑うだろう・・・・。

彼は、彼女は、深刻すぎた、臆病すぎた、求めすぎた。
そして、彼は、彼女は、今、もう終ったことを知った。
何も始まらずに、それでも終わりの幕が下りた事を。
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by mercedes88 | 2006-11-26 09:54 | ストーリー

彼女の忍耐力

 友人と食事をして、場所を変えてお茶を飲んで帰宅する。
時間にして4,5時間の楽しい友達との一時。
お茶だけで2,3時間という時もある。女性はとにかくおしゃべりが好きな生き物なのだ。

ある日曜日の夜、私は小学生の時からの友達と3年振りに会って、街で夕食を一緒に食べた。
彼女は半年後に結婚を控えた、人生で一番輝いている時だった。元々パッチリした二重で、可愛い顔だったが、愛されている女性の美しさが加わり、本当に美しい顔だった。
食事をしながら結婚式の話をして、お茶をしながら昔話をして無邪気に笑い、そしてお式での美しい花嫁さんを見るのが待ち遠しい、と彼女に言って私は彼女と別れた。
帰宅した私は習慣になっている手洗いをしようと洗面所へ行った。ユニットの洗面台のライトを付けると鏡に自分の腰までの姿が写った。
私は思わず声をあげた。
「うわぁービックリした!なにこの顔!」
そう声に出して言ってみて、自分の顔をマジマジと見つめた。
どちらも一重の、まるで笹の葉で切った様な目、穴だけがそこになるのかと錯覚してしまいそうな鼻、何故だか品の無い口元。そして極めつけの、面倒だからと、『とりあえず』のポニーテール。
私は自分の顔を鏡で見るまでの3時間ほど、友人の顔を見て過ごしていたわけだ。結婚を控え、愛されている女性だけが持つ、妻になる、と言う誇りと自信が生み出す美しさで輝いている女性。
私は良い。その輝く顔を見ながら美味しい夕食を食べ、彼女の笑顔を見ながら、彼女のかもし出す優雅な雰囲気の中でお茶をのんだ。
しかし友人は全く違う条件でこの3時間を過ごしたのだ。
この笑っているのか、無表情なのか見当も着かない、あいている穴の奥の方にある目玉、鼻や口は、もうその目があるだけでバランスが崩れ、得点は大幅に下がる。そして決め手は、とりあえず“面倒だから”のポニーテール。耳にようやくかかる長さの髪が頬の辺りに数本落ちてきている。私は思わず思う。
『良くぞこの顔でお天道様の下を歩けるもんだね!』
そしてこうつぶやいた。
「彼女、よく噴出さなかったなぁ・・・・」
たとえ昔から知っているとはいえ、30歳にもなれば、小学校の時の顔とは違うだろう。このマヌケな顔で彼女の前に何時間も居たなんて、考えただけでぞっとする。これからは紙袋かぶって外を歩きたい気分。
彼女の忍耐に心から感謝、または彼女のユーモアを楽しむゆとりにか・・・・・。
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by mercedes88 | 2006-11-25 07:22 | 思い出

『はにわ』は10時までに

1度ボランティアの仕事でお会いしたアメリカ人の方がご夫妻でディナーに招待してくれた。

 その夜7時に職場近くのご夫妻宅にお邪魔して楽しく食事をした。
私達は食事の後のお茶を飲みながら、長い時間、いろんな話をして土曜の夜を楽しんだ。
2人は自宅と言う事もあり、すっかりくつろいでいる。私は彼らがくつろいでいるのが分かり、自分が受け入れられている、と言う気持ちで心地良い土曜の夜の楽しい会話を心から楽しんだ。

 以前から私には悲しい性がある。
映画「旅情」でハイミスのキャサリーン・ヘップバーンが言うセリフ。
それはまさに私の事。
『私はいつもパーティーで帰る時間を忘れて最後の1人になるの』

 その日も私は帰宅の際利用する電車の時間を多少気にしながらも、楽しくて、帰る事を少しでも先へ伸ばしたい思いで、夢中で話をした。
しかし最終電車の時間30分前くらいになるとさすがに腰を上げて、彼らの前から消える決断をし、駅へと向かった。

 運良く最終より1本前の電車が丁度良く私が立ったホームへ入って来た。
私は結構込んでいるその車両に乗り込みドアの前に立った。
ゆっくり電車が走り始める。土曜の夜、美味しいお酒を飲んだ赤ら顔のサラリーマン達、お化粧崩れもなく、色白できちんと足をそれえて車内の椅子に座り同僚か、友人と話をしている女性達、そして車内の半分以上を占める携帯電話でこの世の中の誰かとコンタクトを取っている、または取ろうとしている彼ら。

 車内の左右を見て土曜の夜の人達観察が終えると私は、自分の視線を目の前の電車のドアの向こうに広がる、街の灯に程よく照らされている走り去る夜景に向けた。
しかし1分もしないうちにドアの窓に映る自分の顔を見ていた。
そこには、鏡でしか見られないと思っていた“目の下のクマ”が見える、やけに疲れた、イヤ、疲れきって、今にも崩れ落ちそうな・・・と思われるほど凄い形相の私が見えた。
『ウソでしょう?これ私?まるでゾンビじゃんか!怖いよーこの顔!』
私は自分の右隣の、ドア前のつり革に捕まって両方の耳に小型のイヤホンを付け音楽を聴いているスーツを着た男性に思わず話しかけてみたい衝動に駆られた。
『お兄さん、お兄さん!ドアの窓に映っているこの顔、ゾンビみたいだと思いません?ネーェ、怖いでしょ!?怖いよね、この顔。自分で見ても怖いもの・・・・・』
もちろん、話しかけたりしていない。でもスーツを着た彼も、私と同じ様にドアを見つめている。
私が小さく頷くと、彼がホンの少しだけ頷いた気がした・・・・・私の考えが彼に通じたのかも・・・そして彼も賛同したのかも・・・・・・いや、あれは錯覚だろう。

 私の年齢を知らない人に私が自分の年を言うと「ホント? 30代だと思った」と言って“くださる”方々がいる。
嬉しいと思っていた。たとえその30代が39歳であっても、嬉しいと思っていた。
しかし、もう喜んではいられない。疲れが、顔に出る年齢に達した事実はごまかせない。もうしばらくすれば、いずれ50に到達する年齢なったんだ。

シンデレラは若かった。
だから夜中の0時でいいんだね。
でも水気も無い『はにわ』顔の私は10時には王子様の前から消えなければいけない。
もしかしたら9時半かもしれない、9時半!
さもなければ、棺桶から出て来たゾンビに変わってしまうのだ。
あぁ・・・シンデレラって幾つだったの?良いわねー0時までキレイでいられて・・・。
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by mercedes88 | 2006-11-24 03:03

神様へのリクエストは鼻血

 丁度5階の非常階段のドアを開けた時、5階の中央デスクの電話が鳴り出した。

8時からの仕事を、のろまだからと7時半から始めたのに、8時40分を過ぎても9時には終了予定が、上手く流れていない事は分かっていた。

「どうしてだろう・・・スムーズにこなしているのに!何故9時に終われないんだろう?」

1度警告にも似た質問を受けた事がある。

「もう20分程度前から2階のコピー室のコピー、終っているみたいですけれど、ご存知ですか?」

・・・・分ってる、ちゃんと分ってる、もう終っている事は。
でもそれは最後に取りに行けばいいから、今しなくても良い事なんだ・・・・

5階の中央デスクで鳴り始めた電話が、以前の警告質問だ、と私は思った。
誰かが電話を取って、自分の名前を呼んで
「コピー機の方、終っているって今連絡入っていますけれど、いいんですか?」
と尋ねられる自分が脳裏に浮かぶ・・・・・
誰かが私を呼ぶ前に・・・と5階の非常階段を駆け下り2階のコピー室を目指す。

8段ずつの非常階段。5階から8段駆け下りて、手すりを握った手に力を入れて
体を勢い良く4階への8段の階段へ向ける。
体は遠心力で勢いつき4階の階段へ飛び込んで行った。
しかし、私はもうじき50歳を迎える人間だった。
そしてその遠心力は、50歳には止める事が出来ない程のスピードをもっていた。

私の頭は4階の階段の3段先辺りへ行っていた。
だが、足は未だ階段を一歩も踏み出していなかった。
そして私は頭に鋭い衝撃を受ける。

私は頭を両手で抱えつぶやく。

「痛~い・・・・」

2段ほど降りた階段に座り込んだ瞬間、足元の白いリノリュームの階段に 1滴血が落ちた。
私は、強く、思った。

「どうか鼻血でありますように!」

鼻血なら、ティッシュを鼻に詰めて9時までになんとか仕事を終えられる。
どうか神様、今は鼻血で、お願いします。

私は階段に座ったまま頭から右手を離し、鼻元に手を当てた。そして右手を見たが血の色はなかった。
そしてまた足元に1滴の血。また1滴。また1滴。
それはスピードがだんだん速くなった。

私は微かに違和感を感じる額を右手の中指で触った。
鋭い痛みとともに、右手に感じる暖かなもの。
焦点を合わせるには目に近すぎる右手のひらに赤いものが流れるのが見える。
焦点が合わなくてもそれが血であることはすぐに分る。

発信地が分ると脳に連絡が行くのだろうか?
『オーナーが出血地域を確認』・・・・なんて感じで。
そうすると脳は心臓にその信号を送り、心臓が「ドキドキ」感を出す為脈を早く打ち始める。

私はそんな事をかんがえ、なお且つ、鼻血にしてくれなかった神様を呪いながら
とりあえず4階の非常階段の鉄のドアのノブに手をかけ、力を入れて少し開けた。
丁度中央デスクが見えて、相川さんがいた。私は彼に声をかけた。

「相川さん、ちょっと来てくれます?」
彼は私の見て大声を出した。
「大丈夫ですかぁーーー!」

彼はティッシュの箱を持って非常階段のドアを開けたが、それが充分なものでないと分ると
「タオルもって来ます」と言ってすぐにドアをあけて出て行き、1分もしないうちに戻った。

「これで押さえて」
「何処押さえたらいいか教えてください」
「今手で押さえている所、そうそう、そこそこ。しっかり押さえて」

そのうちタオルを取りに戻った際、彼が声をかけた4階にいた部長や主任がドアをあけて来た。
彼らは驚き、私を気遣い、そして黙々と流血現場の後片付けをした。

相川さんは階段の上の方にも血が落ちているのに気が付き、私に尋ねてきた。

「メルセデスさん、ここにも血が落ちているけれど、何処でオデコ打ったん?」

私は左手でさしながら言った。
「そこの階段下の脇は張られている鉄板」

相川さんは驚いた。

「メルセデスさん、ここで打ったん?ここ?ここで打ったん?ホント?
どうしてこんな所で頭打ったん? 本当にここ?」

彼は一体何処出身なのだろう?このイントネーションは九州の南の方か?


その後、私は近くの外科に行き額を5針縫った。
左目の横が内出血で腫れているので、外科の診察室で治療を待つ間
同僚がくれた保冷剤で左目付近は冷やしていた。
外科の先生が言うには、ナイフで切った傷はキレイで、縫ってもキレイな傷跡だが
打って出来た傷口はもちろんギザギザしていて、腫れもある為傷口が内側にめくれ
縫うのも時間がかかるし、傷跡もキレイにはならないらしい。
大きなコブになっていた私の額からマズ固まった血を取り除き、それから縫って、出来上がり。

同僚みんなは、顔に傷がついた、と気の毒がるが、私は気にしていない。
それよりも、もうじき50歳を迎えるオバサンが階段を駆け降りる事が大体よくない事を学習した。
気持ちは若いつもりでも、体はもう少し立てば50歳という門をくぐるのだ。
自分の年齢を自覚しなくては・・・・・。

仕事を早退した私は帰宅して左目を冷やしながら横になった。
目が覚めると額の腫れはひいていたが、左目はさらに腫れていた。
15ラウンド戦ったボクサーの様に・・・。
しかしまだ紫色には変化していないが、それも時間も問題。
夕食を終え、軽くシャワーを浴びる頃にはいよいよゾンビの出来上がり。

私はデジカメで自分の顔と紫色にはれ上がった左目辺りをアップで撮り友人に添付メールを送った。

翌朝思った程の変化はなかったが、とりあえず出社支度をして朝食を取り、メールチェックをした。
昨夜添付メールを送った友人から返事が届いていた。

「見たかったのに、パソコンのウィルスバスターが削除しちゃったのよー!残念ー!」

確かに、あの写真の顔は、ウイルスバスターには引っかかるだろう・・・・納得行く事だ、全く。

それから相川さんへ。

人は思いもよらない場所で、思いもよらない災難にあうんですよ。それはもう、神の仕業なのですから・・・。
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by mercedes88 | 2006-11-19 11:22 | ストーリー

彼女達の武器

 職場が変わった為、朝の満員電車に乗る事になった。
ニュースやCMで見た事がある、あのドアのガラスに顔がベチョっとくっ付く位のもの。
私は急行電車に乗り換える際、その状態の電車に乗り込み、5分程度で着く次の駅で降りる。
その為最後の乗客として電車に乗り込む作戦をとっている。
しかし、それもなかなか上手く行かない。そう考えているのは私1人ではないし
そこにはなんと、武器を持った美女達が無数にいたのだ。

 まず彼女達は自分の武器の威力を知らない。
私は最後の1人になる事をあきらめ、とりあえず電車に乗り込むと次から次にと彼女達が乗り込み。
そして容赦なく、私の腕や背中にその武器を押し付ける。

彼女達が肩から下げているブランド、トレンドのバッグの角が容赦なく私の体にブチ当たる
彼女達はその武器が武器と成している事を知らないので、決して、断固として、肩から下ろさない。

当然だ。それはショルダーバッグなのだから。

経済新聞を読むキャリアウーマンもいる。
この満員電車で、新聞を読むこの姿勢は上司に報告すべきだ。
彼女は新聞を上手に縦に4つに折りそれを半分にして読んでいる。
彼女の肩のかけられたブランドのバッグは勢い良く彼女の背中から後ろへ突き出ている。
時々彼女はバッグが邪魔なのか、自分の肘で上手くバッグを後ろへ押す、素早く。

私の無防備な腕にバッグの角が突き刺さる。

私は小さく「イッタ」と思わず言う。
彼女は振り向き私を見る、キリッとした眼差しで。
その途端、彼女の武器が、隣で目を閉じて音楽を聞きながらしばしこの世を離れていた若き何処ぞの王子の胸元に強烈に突き刺さり、哀れ若い王子は流れ出る己の赤い血を見て青くなり
その場に倒れこもうとするが、スペースが無いので、とりあえず胸を押さえて立っている。
彼女はそんな事はお構いなく、今日の、明日の経済を立て直すべく、新聞を読んでいる。

 そうしていると電車が揺れて私は捕まる所がなかったためよろめき、斜め後ろの乗客に体が当たった。鋭い痛みを横腹に感じる。斜め後ろの美女はトレンドのバッグを腕にかけている。その角が私の左のわき腹に突き刺さった。
彼女はせっかくきれいな姿勢で立っていたところを私に寄りかかられバランスを壊したことに腹を立てたらしく私を押し返してきた。
2度目のパンチ。しかも場所が同じなので、ダメージは大きい。
私は息を整えて近づく駅を待つ。

 ようやく駅到着、車両やや中央に押し込まれていた私は「すみません。降ります」を繰り返し下車する。
その際ドアまでの間に何度も、腕や胸、腹部に彼女達の武器が容赦なく突き刺さる。

ようやく電車から降りた私は走り行く電車を見送りながらつぶやく。

一体何故彼女達は、肩から、腕から、武器を下ろして手で持たないのだ。
一体何が彼女達に武器を担がせているのだ?
何故なんだ?!

誰かが言わなくちゃいけないのだろうか?

あのーきれいなお姉さん、その皮のバッグ、肩から下ろして手で持って電車に乗ってもらえませんか?
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by mercedes88 | 2006-11-09 07:46 | 日記

お気に入り

 仕事帰り、職場から出てすぐ隣のショップのディスプレイを見て立ち止まった。

「わぁー!いいなぁ、これ」

私は初めてその店に入った。
そしてお店のスタッフに言った。

「表から見える絵、素敵ですね」

その日は10月1日。
この街で10月の1ヵ月、いろいろな店がアート月間を実施しているらしい。
このお店はフランス人のレイモン・サヴィニャックを何点か飾っていた。
サヴィニャックを直接知っている方が所蔵している作品をお借りして展示しているらしい。

私は11月に誕生日を迎える知人の贈り物に表に飾ってある絵がピッタリだとすぐに思った。
そこで何枚目のプリントか分らないが、こっそり価格を見てみると6桁だった。
とても購入は無理。
そこであきらめないのがオバサンの私。

「あのー、実は来月知り合いの誕生日なんですが、名前がDUNLOPなんです。
それであの表の絵を贈りたいと思ったのですが・・・・・」

「あれ、イイでしょ。ボクも好きなんです。でも高いですよね」

「それでぶしつけなお願いなのですが、写真を表から撮らせて頂きたいのですが・・・」

そのお店の方々は実に親切で、私の厚かましいお願いを受け入れてくれた。
その時刻まだ陽射しが強く、しばらく経たないと表から撮影すると
陽が反射して取り難いのでは・・と言ってくださり
そこに1時間ほど居させて頂き、写真を撮らせてもらった。
もちろん、この様なブログに載せたりしない・・・というお約束で。

なので、この写真は2日ほどで削除します。

知人に先日その写真の一枚を贈った。
陽の反射のない、きれいな写真。

でも、私はこの絵の方が好き。
お店の外から撮った、という事が分るこの一枚。



お店の方は、絵を直接中から撮れるように、動かしてくださる、とまで申し出てくれたが私は

『ふと、通りで見かけたサヴィニャックを撮った』

というアイディアが気に入って、お店の外から撮らせてもらった。


知人の手元には無い、私の撮った、違うバージョンのこの写真。
これは私のお気に入りの一枚。
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by mercedes88 | 2006-11-03 07:46 | Art

時間と空間

 アッと言う間に時間が過ぎる。

先日友人がメールでこう書いていた。

「ランチタイムにブログ覗くけれど、更新していないのね。忙しいの?」

そうだなぁ・・・・・忙しいのか、時間の使い方だヘタなのか・・・。

最近一日のスケジュール表を作るようになった。
そうすると、一週間の予定も立てる様になり
もちろんそれはひと月の計画へと繋がる。

すると、ある時友人の誕生日を書いているカレンダーをみていたら
それも書き込もうとスケジュール表を広げ書き始めると
ついでだから一年分全部かいてしまおう、と思い書いていくうちに
1年の計画が出来上がった・・・・・ウソみたいだけれど。

そうすると、面白いもので

今年の念頭に決めた事はあーだった、こーだったと思い出し
翌年はどうしよう、その翌年はどうしよう・・と考え始めて
気がつくと3年くらい先の事まで、ボンヤリとだけれど
それなりに目標みたいなものが出来た、イヤ、出来てしまった・・・・。

今日オークションで売れたダブルベッドを宅急便の集荷の方々が来て
ホンの10分程度で部屋の3分の1を閉めていたベッドを部屋から持ち出してくれた。

広くなった部屋で、ふと思った。

空間が出来ると、まるで時間がゆっくり進んでいる感じがする・・・・・と。

もちろん、そんな事は感覚だけの話で、現実の話では無いのだけれど
実際この時間にブログを書いている私は、昨日までこの時間なら
仕事に必要な資料に目を通していた。

とりあえず、空間が私にとって理由ははっきりしないけれど
必要で、プラスに働く事が分った。

ひと月過ぎたら、読書の為に買ったメルセデスがオークションに出ているかも知れない。
もしかすると、サッカー観戦用のマティが売りに出ているかも知れない。
今パソコンを置いているこのカリモクの丸テーブルが売りに出ているかも知れない。

見回せば、本当に必要な物を考えると、わずかな家具で充分と思ったりする。
これは果たして、良いコトなのか、ただの私の「シンプルライフへの憧れ」と言うブームなのか
今年のクリスマス、この部屋はどう変化しているのだろうか・・・・・。
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by mercedes88 | 2006-11-01 22:22 | 日記